慣れてきて、新しく教えてもらうこともずいぶん少なくなって、あとはできるだけ効率的にドリンクをつくったり、お客さんの注文を受けて流して行くことに集中するようになった。時間的にはもうかなり入っているので、入りたての頃のオドオド感もなくなったし、逆に自信を持って商品を提案するようにさえなった。
そのたくさんシフトに入っての「慣れ」の一方でちょっと困ることもある。
レジ担当の時のことだ。
お客さんは相当な「通」な人で無い限り、自分が今、何を飲みたいのか全くイメージできていない。とりあえず、メニューを見て決めようと言う人が大半である。それに、カップの大きさもよくわからんと言う人が多いので、こっちから注文を聞き、お客さんはその聞かれた選択肢の中で意思を決定していくパターンが多い。
私はそれのことについては全く問題ないと思う。
自分自身、スタバでバイトを始めるまでは、スタバに対する知識はゼロに等しかったので、店に一人で入る勇気が無かったし、メニューを見たところで何がどんな味がするのか分からないので変なものを注文して失敗するのも怖かったからだ。
だから、レジでは限りなく丁寧に接するし、聞かれなくても「分かってないかな」と思ったら、お客さんの知りたそうな情報をこちらから提案して、ニーズを発見する。これは、スタバに入って新人全員が受ける研修でも、そうするように教育を受けている。
しかし・・・。ちょっと困ることが・・・。
あるカップルがやってきた。私はレジ。
「こんにちは」
「どれにする・・・?」
ここまではよくあるパターン。というか、みんなこんな感じ。そして私はレジ前で、お客さんにプレッシャーをかけないようにしつつ、待つ。いつ注文がきてもいいように、待つ。
しかしそのカップル、メニューを見たまま、動かない、しゃべらない。
30秒たっても、ピクリとも動かない。
困った・・・。
「あの、よろしかったらご説明いたしましょうか。」
「・・・。」
何にも言わない。動かない。しゃべらない。
唯一、視線だけは「どれにしようか」迷っているようだった。
「本日は温かいお飲み物とつめたいお飲み物はどちらがよろしいですか。」
「・・・。」
だめだこりゃ。
一分以上経った。無言で一分は相当に長い。というか、きつい。
私はその間、そのカップルが何かきっかけになることを言わないか、そこからニーズを見つけようと聞き耳を立てているのに1分、何もしゃべらないというのはきつい。そしてその間、私はレジの前から動くことができない。
やっと彼女の口が動いた。
「キャラメルマキアート。」
「はい、(長かったなー。)かしこまりました。こちら、ホットとアイスがございますが。」
「・・・。」
・・・っておいっ、また悩んどるがなー!!!悩みすぎ。せめてあったかいのかつめたいのか、自分がどっち飲みたいのかくらい3秒以内に判断してください。
待つこと15秒・・・。
「アイスで。」
「サイズはいかがいたしましょうか。こちら4種類ございますが。」
「・・・。」
うおぉぉぉぉぉぉぉーい!!また悩んどるがなーっ!!勘弁してください。悩みすぎ。どこまで決断力ないんですか。
「・・・じゃ、ショートで。」
「(はぁはぁ・・・)●●円、よろしくお願いします。」
バーでドリンク作る人は、待ちくたびれて奥で皿を洗い始めていた。
商品の説明とか、甘いものが好きだとか、冷たいものが飲みたいとか、何かきっかけになる希望があったら、スタバは喜んで説明しますから、沈黙状態で2分近く悩むのはちょっと勘弁してください・・・。(切実に)